校門前の併用軌道~不審者になる勇気はない~
鉄道オタクの朝は早い…通勤ラッシュ前の駅舎を撮るためか、通勤時しかない路線に乗るためか、はたまた近隣の迷惑を避け不審者になることを防ぐためか…
今回のターゲットは熊本電気鉄道の併用軌道。藤崎宮前駅~黒髪町駅間の一部、わずか150mほどだが、民家や学校の目の前を電車が走り抜ける。
そんなところに電車を見に行くのだ、人通りの多い時間帯は絶対に避けたい。特に朝8時とかに電車見てにやにやしながら校門待機していた日には、熊本市の不審者情報に乗ってしまう。見に行くなら始発しかない…
というわけでここは熊本都市バス『新町』、時刻は6時ごろ。このバス停から06:09発の第一循環にのり浄行寺まで移動し併用軌道区間へと向かう。季節は冬で外は真っ暗、正直寒い。
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併用軌道とは???
『軌道』は所謂道路上に敷かれた線路のことを指す。基本的には路面電車のものを指し、道路上で色分けがなされている(一般車両は原則立ち入り禁止のため)。それを車用の道と共有していると『併用軌道』と言われる。
長崎電気軌道の出島~築町の区間がこれに相当する。
なお熊本電気鉄道は文字通り熊本を電気で走る鉄道である。が、もともと路面電車になる予定だったらしくこういった区間が存在する。
話を戻そう。今回求めている電車は黒髪町駅06:34発の藤崎宮前駅行きである。この始発列車に間に合うバスもまた始発、少ないながらも乗客がいる。乗客が少なければ降りる客も少ないのだが、このバスの運転手さんはとても丁寧。利用者のいないバス停では『お降りの人いませんか〜』と声掛け確認をしてくれる。うっかり眠ってしまう人もいる時間帯、ありがたいものである。
街明かり以外は何もない静けさを行くこと15分、浄行寺駅に到着。ここからはお目当ての併用軌道まで歩いていく。
併用軌道で近距離撮影会
6:30頃、所定の位置にたどり着くことができた。『列車注意』の白い文字が気分を高揚させる。黄色い線の左側が目的の併用軌道である。この写真ではわかりにくいが、線路と道路の間には黄色い線しかないし、線路のすぐ隣には民家が立ち並んでいる。柵などはない。
到着から約五分後、踏切が赤く光り列車の接近を知らせる音が鳴り響く。そして、すぐ目の前を二両の電車が走りすぎた。民家の反対側から眺めていたのだが、距離が近いためか一瞬のことに感じられた。
今度は民家側から見てみよう。とはいっても民家の前に立つようなことはしない。それこそ不審者でしかないし、何より轢かれる可能性が出てくる。R.I.P.雨宮はさすがにダメだ。
そこでこの小道を渡るんですよ。
写真には何も映っていないが、この併用軌道区間は第一種踏切(通常の踏切)二つで踏切警報機二つを挟んでいる。後者は光るが音はなっていない。
つまり電車が一本通るたびに、二つの踏切分の警告音と、四つの踏切分の警告灯を味わうことになる。視覚的にも聴覚的にも騒がしい。
あと電車が走るので相応の風圧と振動が付いてくる。
藤崎宮前駅発の電車はすべてこの区間を通過するので、6時~23時の間は一時間当たり2回(通勤通学時は4回)踏切が鳴り響く。ここに住むのは大変そうだ。(あくまで想像、実際のところは不明)
踏切のお話
こちらは第一種踏切(通常の踏切)。二つ前の写真では電車の陰に隠れている。
こちらは通常の踏切の間に設置された踏切警報機、電車が接近すると警告灯が点滅する。おそらく音はなっていない。先ほどの写真では真ん中付近で点灯していた。
自動遮断器(踏切のポールのこと)はついていないが、列車の接近を知らせる装置(警告灯)はあるので第三種踏切に該当するはず。
また熊本電気鉄道の踏切の音は、一般的に想像される電子音のそれとは違う。旧型の電鈴式と呼ばれるもので、実際に鐘を叩いて音を出している。カンカンカン…という響きは一緒だが、現代のものよりやや高温で乾いた感じがする。あと複数場所で同時に鳴ると少しずつ音ズレが発生し、カカンカカンカカン…といったリズムと変化していく。
第一種とか第三種踏切とは何ぞや?という方は以下のリンクをご覧ください。
ちなみにこの後第四種踏切が出てきます。
https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/tetudo/fumikiri-s.htm
踏切の話はこれくらいにしておこう。
さて、民家側から撮影した肝心の写真はというと…。
………へたくそ!ボケボケにもほどがある!もう少しいいカメラ用意したらどうです!?
一枚目の時間帯に比べて明るくなったのできれいに撮れると思ったのだが、普通に悪化した。私はカメラ趣味ではないので普通にスマホで撮影している。昼間は特に支障はないのだが、夜間は使い物にならないのが正直なところ。
写真は残念な結果に終わったが、ド迫力の併用軌道を二回も味わえたので私は満足だ。
沿線から見る熊本電気鉄道
見て楽しい熊本電気鉄道だが鉄道は乗り物、つまり乗車しないと始まらない。さてどの駅に向かおうか。
黒髪町で乗車し藤崎宮前で降りても良いのだが、それだとたった一駅なので楽しくない(最初の新町までは早く戻れるけど)。
調べたところによると北熊本駅には車庫があり、かの『青ガエル』が眠っているらしい。また同鉄道会社はくまモンのラッピングカーを所持しており、じっくり眺めるには車庫まで行くのが正解だろう。
少々距離はあるが、沿線を眺める楽しみは確かに存在する。
よし、北熊本駅まで歩こう。
歩き始めたところで、(自分にとって)驚愕の事実が判明する。
熊本電気鉄道の電柱は木でできている。しっかり木目が存在するし、乾燥してできたと思われる割れ目も見受けられる。
まっすぐ伸びる針葉樹(花粉のもとになってるあいつら)は電柱にふさわしい。他のコンクリートと比べてコストが抑えられるのには納得。(ただ火災になりやすいのも分かる)
https://seito-ef.co.jp/blog/utility-pole/#i-6
朝7時近くにもなれば大通りには車も並ぶ。ここは国道37号線、かすかに残る朝焼けと人工灯のコントラストが美しい。
歩道の横には線路が敷かれている。大通り沿いということもあり、柵や川のおかげである程度距離は保たれている。それでもこんな近くに電車があるなんて、自分が小さい子供だったら触ろうとして怒られるに違いない。道路の真ん中にある路面電車より、接触事故に気をつける必要がありそうだ。
接触事故の危険性といえば第四種踏切。列車の接近を知らせる装置が存在せず、左右安全を確認し渡る必要がある。併用軌道周辺にはこれでもかと踏切警報機が設置されていたが、この周辺には何もなかった。利用される方はこれからも安全第一で渡っていただきたい。
北熊本駅から上熊本へ
寄り道をしながらも併用軌道から約30分で北熊本駅に到着した。駅前は広々としたロータリーとなっており、送り迎えや荷物の搬入に便利そうだ。
写真右のくまでんSHOPにはくまでんグッズやくまモングッズも販売されているとのこと。この日は開店前だったが、オンラインショップもあるので覗いてみると楽しいかも。
北熊本駅のホームに入るとくまモン電車と青ガエルがお出迎えをしてくれた。
青ガエルを見るのは初めてではない。昔は渋谷駅のハチ公口に設置されていたし、同じ車両が今は秋田県の大館駅(秋田犬の里内)に移設されている。
ただ大きく違うのは、熊電の青ガエルは動態保存であること。ここ北熊本駅では何度も『青ガエル運転体験会』が行われており、昨年2023年度は第38回というから驚きだ。元気なうちに一度は参加してみたい。
(これは昨年度の募集になります)
3番線から発車する上熊本行の電車に乗り込む。これまた派手なくまモンラッピングカーだ。
内装も凝っている。扉の振り向きくまモンがかわいらしい。個人的にロングシートは好きじゃないが、渾身の装飾付きならば大ありである。
駅一覧の右上にも小さいくまモンがいる。どこまで盛り込むんだ。
電車が走り出す。速度に対してゆっくりで大きな揺れを感じる。運転席から外を見ると、軌道のゆがみを確認することができた。うーんやはり経営がきついのだろうな…弘南鉄道の4年ぶり二回目の脱線&長期運休みたいなことにはならないでほしい。
10分ほどで終点の上熊本駅に到着。一応JRとの接続駅なのだがこぢんまりとしているな。通勤時間帯ということもありそれなりの混雑具合。料金230円也。
ちょっとばかし経営が心配になる鉄道だけど、ICカード対応済みで旅行者に優しい。切符だと紛失のリスクがあるのでとてもありがたい。
この後は熊本市電に乗ったりカフェで朝食をとったりしたのだが、記事にするほどのものではないのでまた今度。
それにしても熊本市はくまモンだらけだ。公共Wi-Fiのシール、パン屋さんの置物、宅配ピザのボックス、宿の鍵のキーホルダー、スーパーマーケットのポップ…上げていけばキリがない。『熊本の者(モン)』だから『くまモン』という理由で、九州の野生の熊は絶滅したとされるのに(だからこそでは?)。
終わりに~一人静かに夜道を行けば~
一般的に冬は旅行に向いていない。日が短いから観光施設は早く閉まるし、薄暗いと景色を楽しめない。夏至と冬至の日照時間の差は全国平均で約5時間もあるという。ただ早朝の散歩を楽しむうえでは、夜の長い冬のほうが好きだ。薄暗いと太陽とともに目覚める人間はまだ布団の中、寒さも相まって皆こもりがち、故に誰もいない静まり返った街を堪能できる。
熊本電気鉄道は慢性的な赤字らしく、設備が古いのは余裕がないからと思われる。鉄道ファンにはうれしいけれど、経営的な面からすれば喜べない…
地方鉄道は推せるうちに推せですね。
ここまで読んでくださりありがとうございました。